The Journey Log of a Jeweler

ひとりのジュエラーによる世界ジュエリー紀行” みて つくって 恋をして "

Museum01/メトロポリタン美術館/The Met/ニューヨーク(アメリカ)

※こちらの記事は2017年に本美術館に来訪した際に書いた内容を加筆・修正したものです。ご訪問の際は最新の情報をご確認ください。

 

こんにちは、綾野です。

ジュエリーが展示されている世界の美術館/博物館をご紹介する“World Jewelry Quest”、第一回目はニューヨークのメトロポリタン美術館、通称メットを取り上げます。

世界3大美術館のひとつでありご存じの方も多いと思いますが、個人的に初めて“美術の力”を体験した始まりの場所であり、アメリカン・アール・ヌーヴォーの巨匠ルイス・C・ティファニー作品を多数見られることから第一回としてこちらを選ばせていただきました。

ジュエラー的見所はルイス・C・ティファニー作品

かのティファニー創始者チャールズ・ルイス・ティファニーの息子であり、アメリカ屈指のデザイナーであったルイス・コンフォート・ティファニーをご存知でしょうか。19世紀後半から20世紀初頭のアール・ヌーヴォー最盛期に活躍し、ナチュラリズムに基づいた自然を美しく表現したステンドグラスやジュエリーを多数生み出しています。

私がメットに展示されている彼の『木蓮と菖蒲』というステンドグラスを初めてみたのは20代前半でした。色々と人生に迷っていた多感(笑)な時期だったのですが、このステンドグラスを前にして、「こんなに美しいものを見ることができるなんて生きてきてよかった。」と素直に生を肯定することができたのです。作品そのものも素晴らしかったのですが、展示のライティングも素晴らしくて、たくさんの人の仕事が重なって今ここにこの美はあるのだと人間愛すら覚醒しました。

たくさんの人の仕事が重なった、という意味では『ティファニー・ガールズ』と呼ばれる当時ガラス工房で働いていた女性たちの存在も見逃せません。まだまだ男尊女卑の時代、スポットライトが当たることこそありませんでしたが、ティファニーランプを代表するドラゴンフライなどをデザインしたのはクララ・ドリスコル(Clara Driscoll)という女性だったそうです。その辺りのことはこちらの書籍に詳しいそうですが、日本語訳はなく英語版は数行で挫折してしまいました…ははは…。Kindle版もございますので英語にお強い方はぜひ。

ステンドグラスの他に花器などのガラス作品、そして忘れてはならないジュエリーも展示されています。彼の作品はひと所に集められておりますので、ご訪問の際はぜひ探してみてください。メットのオンライン図録にて“Louis Comfort Tiffany”と検索すれば所蔵場所が確認可能です。

寄託ファベルジェ・コレクションも一見の価値あり

続いてお探しいただきたいのが、帝政ロシアの皇室御用達金細工師カール・ファベルジェの作品たちです。かの有名な「インペリアル・イースター・エッグ(ファベルジェの卵)」のうち、「デンマークの宮殿」「ナポレオン」「カフカス」を見ることができます。

卵もすごいですが、個人的なおすすめはこちらの鈴蘭・アネモネ矢車菊の模造花3美人です。ロシアは寒く当時は生花が希少だったことからこのような工芸の花々が重宝されたそうですが、「いやこれどうにか生花摘んでくる方向性の方がコスパいいんちゃう?」と突っ込みたくなってしまう、細部まで作り込まれた金属の花に度肝を抜かれます。(私の一番のお気に入りのファベルジェの花は別の美術館にあるのでまた別の記事でご紹介させていただきますね!)。いま色とりどりの花々が気安く手に入る我々の生活が、どれだけ豊かなものか改めて気付かされます。

ファベルジェのお家芸といえばギヨシェ・エナメル(地に幾何学模様を彫りその上から透明のエナメルをかける手法)ですが、こちらで初めて拝見して感銘を受け、こんなものを作りたい!と足元に及ばないどころかダイヤモンドが形成される深度のレベルのものを作っては壊し作っては壊ししていたニューヨークのジュエリー専門学校での日々を思い出します。無知って怖い…一体先生はどう思いながら付き合ってくれていたのでしょうか、改めてありがとうございます。

美しいですね…エナメルもピンク色はすぐ焦げて難しいのであります。

以上、過去ブログと同様に個人の性癖をもとに独断で選出した作品をご紹介させていただきましたが、まだまだ他にも古代から近代に至るまでの幅広いジュエリーが広大な敷地に点在しております。2017年の来訪時には存じませんでしたが、19世紀ドイツの天才贋作金細工師Reinhold Vasters(ラインハルト・ヴァスターズ)作品もまとまっている場所があるそうです。このヴァスターズ氏、自身で手がけたジュエリーをルネサンス期のものとして販売、一流の美術館ですら騙され購入していますが、死後に工房から原型などが出てきたことで彼の手によるものだと発覚したという逸話をもつジュエラーで、おいおいジュエリー界のルパンかよ、めっちゃ気になるやん…となっております。自分で作るようになると贋作を作ることがいかに難しいことか、お主もはやただの天才じゃ!と思ってしまうものであります。

数回の訪問では全く掴めない巨大なメトロポリタン美術館。いつかまたこの美術の海に揺蕩いたい、再訪を夢見る美術館の一つであります。

参考

ルイス・コンフォート・ティファニーについて

https://www.tiffany.co.jp/world-of-tiffany/about-louis-comfort-tiffany/

メトロポリタン美術館オンライン図録

https://www.metmuseum.org/art/the-collection