The Journey Log of a Jeweler

ひとりのジュエラーによる世界ジュエリー紀行” みて つくって 恋をして "

Special Exhibition02/Josef Hoffmann -Falling for beauty/ART&HISTORY Museum (ブリュッセル)

※こちらの記事は2023年10月〜2024年4月ブリュッセルにて開催された企画展のレポートです。本施設にご訪問の際は最新の情報をご確認ください。

 

こんにちは、綾野です。

ジュエリーが展示されている世界の美術館/博物館をご紹介する“World Jewelry Quest”、今回はブリュッセルにて開催中のJosef Hoffmann(以下ヨーゼフ・ホフマン)企画展のレポートをお届けします。

20世紀前半オーストリア・ウィーンを拠点に活動した建築家であり、ウィーン分離派・ウィーン工房の設立者の一人でもあるヨーゼフ・ホフマン。「生活の芸術化」を目指し、建築に留まらずインテリアやジュエリーなど生活に関わるあらゆるプロダクトを手掛けました。お膝元ウィーンのMAK美術館で彼を知り大変感銘を受けたのですが、ブリュッセルには代表作の一つである「ストックレー邸」があり、実はベルギーとも縁深い方なのです。

本展覧会のタイトル「In de ban van schoonheid(蘭題)」は日本語にすると「美の魔法にかけられて。生涯において“美”を追求したヨーゼフ・ホフマンの軌跡を辿ってみましょう。

美は人を癒すことができる、そして「生活の芸術化」

本展示は「ストックレー邸」「サナトリウム・プルカースドルフ」などの建築模型を中心に据え、家具や食器といったプロダクト、さらにはそれらのデザイン画が時系列で並べられていました。個人的に心に留まったものを一挙にご紹介します。

オーストリアの50セント硬貨にも描かれている「セセッシオン館」の模型。「金のキャべツ」と呼ばれる月桂樹のボールが目を惹きます。その下にはセセッシオン(分離派)のモットー「時代には芸術を、芸術には自由を」の文字。

ヨーゼフ・ホフマンのスケッチを元に作られた建築模型。このような踊り場のない長い階段は建築法で許可されていないそうですが、そのせいか不思議というか不吉な感じ。いったんはルールを取っ払って自由に想像を膨らませていたのでしょうか。

1900年パリ万博で展示されたアームチェアと1906年椅子デザイン画。Theユ―ゲント・シュティール(ドイツ語でアール・ヌーヴォーの意)な優美なライン…本展示の中で自分が一番買いたくなったものです(笑)。椅子を構成するライン一本一本が考え抜かれているのだと感じることができます。

ティーポットのデザイン画はエナメル模様がとても素敵。よく見るとラインマーカーのようなもので色をベタっと塗っているだけなのですが、それでこの美しさ!魔術師か。

1910年のテキスタイルデザイン。「正方形のホフマン」という異名の通り、正方形のフレームをベースにユーゲントシュティールらしい曲線を見事に調和させています。

1925年パリ万博で展示されたパンプキン・ティーセット。丸々としたフォルムに槌目をつけたテクスチャーがなんとも言えず魅力的です。この万博ではオーストリア館全体のディレクションも務めたそう、国を代表するデザイナーだったのですね。

1937年パリ万博で展示された「スターのための調度品」と銘打たれた一室。一つ一つのディテールもさることながら全体のコーディネートも素晴らしくため息。こんな空間に生きてみたいものです。

ホフマンは「美は人を癒すことすらできる」と考え、生活に芸術を落とし込むことを目指しました。確かにこんな空間に住めたら日々心が潤うのは間違いないですよね(住めたらだけどね…笑)。1914年の第1回ドイツ工作連盟ケルン展は、ホフマンの歴史、デザインの歴史の上で非常に重要な役割を果たすそうですが、そこでホフマン含めて巻き起こったディベートの問いは

What is the socio-political right of existence of handmade individual artistic luxury products versus standardised mass-produced goods?

標準化された大量生産品と対比して、手作りの芸術的高級品の社会政治的生存権は何でしょうか?

身の回りがほぼマスプロダクションで埋められている現在の私たちなら、この問いにどう答えるでしょうか。

一度見たら忘れられないホフマン・ジュエリー

ジュエリーはショーケース1つ分しかなかったのですが、私の大好きなホフマン・ペンダントがあったので大満足であります。

1907年にウィーン工房で作られたこのペンダントは、シルバーと半貴石という一般的(というかむしろ廉価)な素材ばかりを使っているのにこの特別感。一度見たら忘れられないインパクトがあります。ここでも直線と曲線の融合が素晴らしいですね。

Credit:MAKWien

こちらのデザイン画、本展示にはなかったのですがぜひご紹介したく貼っておきます。まるで曼荼羅のよう一枚、宇宙感じるわ…欲しい…(語彙)。

余談ですがMAK美術館のオンラインコレクションで「Josef Hoffmann Jewelry Design」と検索すると彼のデザイン画を見ることができますが、絵のクオリティはそこまで高くないのが希望になりつつ(笑)、400件以上のヒットとデザイン量がすごくて圧倒もされます。

こちらの象牙のネックレスもディテール素晴らしかったです。カメオに彫金、ホフマンに死角なし。

美のディズニーランド「ストックレー邸(Stoclet Palace)」

ヨーゼフ・ホフマンが建築から家具什器までの全てを手掛け、1911年に完成した「ストックレー邸」(ベルギー・ブリュッセルユネスコ世界遺産に登録されています。アール・ヌーヴォーからアール・デコへの転換点となった建築物と評価されており、直方体を組み合わせたすっきりとした外観にクリムトが制作した壁画を含む優美なインテリア、まさに美のディズニーランドやないか〜!彼の信仰を具現化したような場所なのですが、残念ながら現在は公開されておらず、、、嗚呼入ってみてぇ〜!私がベルギーに生きてる間に一回でいいから開けてくれ〜!!

Credit: Ans Persoons' office

そこに朗報!2023年のブリュッセルアール・ヌーヴォーイヤーを記念してこのストックレー邸の完全3Dデジタル複製プロジェクトが実行されました。そのデータが同美術館にて展示されているのであります!デジタル時代万歳!!こちらまた別のブログにてレポートさせていただきたいと思っておりますのでお楽しみに。

 

展示が展示を呼ぶと言いますか、またさらに行きたい場所が増えた今回のヨーゼフ・ホフマン企画展。「美は人を救うのか?」という問い、この戦争が続く世界では「NO」と答えざるを得ませんが、それでも私は美術館に通い美を愛でることをやめられないのであります。

参考

Josef Hoffmann – Falling for beauty

https://www.artandhistory.museum/en/josef-hoffmann

ストックレー邸

https://whc.unesco.org/en/list/1298/

Stoclet 1911 - Restitution

https://www.artandhistory.museum/en/stoclet-1911-restitution